
ITの活用が多様化・高度化する中、製造業においても、OSやソフトウェア更新に伴う膨大な運用負荷やコスト、高スペックPCへの投資負担の増大、さらにはランサムウェアに代表されるセキュリティリスクなど、ITインフラを巡る課題が顕在化しています。
しかし、こうした課題が存在していても、「手間やコストがかかるのはやむを得ない」「当面は我慢するしかない」と受け止められ、抜本的な見直しに至らないケースは少なくありません。日常業務に直ちに大きな支障をきたさないため、“事業継続を脅かすほどの経営課題”としては、認識されにくい点も背景にあります。
いまや“日常業務の一部”となってしまったITインフラの課題。しかし、製造業の将来を見据えたとき、これらを本当に「仕方のないもの」として放置してよいのでしょうか。
本コラムでは、製造業が直面するITインフラの課題を整理し、特に注意すべき5つのリスクを解説。
あわせて、それらの課題解決に有効な最新テクノロジーや支援体制についてもご紹介します。
いま製造業が直面するIT課題とは
製造業の現場では、ITの役割が年々広がる一方で、対応すべき課題も次々と浮かび上がっています。多くの企業が抱える懸念事項には、次のようなものがあります。

アルゴグラフィックスではさまざまなものづくり企業を支援しており、こうした課題に関するご相談も多数寄せられます。なかでも特に大きな問題となっているのが、次の5つの懸念です。
1. OSやソフトウェアのバージョンアップ工数の増大
2. ランサムウェア感染時の業務停止リスク
3. 一律スペックのPC配布による限界
4. 挑戦を阻む環境での機会損失リスク
5. IT運用の属人化と不足。ノウハウのブラックボックス化
次項からは、これらの懸念についてそれぞれ詳しく解説していきます。
1. OSやソフトウェアのバージョンアップ工数の増大
終わらないアップデート作業に疲弊する現場
製造業では、設計・開発部門だけで数百台から数千台にも及ぶPCやワークステーションを使用することも珍しくありません。そうした膨大な端末の保守・運用を、少人数の担当者で担っているケースも多く見られます。
その負担は極めて重く、特にWindows 10から11への移行のようなOSのメジャーバージョンアップや、CAD/CAEといった専門ソフトウェアのアップデート作業には、計り知れない時間と労力、費用が必要です。ある企業では、OSアップデートに向けた事前テストだけで半年、全PCのバージョンアップの完了にはさらに2年近くもの期間を費やした例があります。
加えて、アップデート期間中は、社内にバージョンの異なるOSやソフトウェアが混在する状態となります。データの互換性の問題やアップデート期間中の作業停滞など、業務に支障をきたすこともあるため、担当者は関係各所のスケジュールを計画的に調整し、対応にあたらなければなりません。こうした煩雑かつ非効率な作業は現場を疲弊させ、業務にブレーキをかける事態となってしまっています。
2. ランサムウェア感染時の業務停止リスク
増大するセキュリティリスクと事業継続の危機
自然災害やサイバー攻撃などの緊急事態が発生した際、事業継続の備えが不十分な場合には、企業活動に重大な支障が生じる恐れがあります。特に近年、サイバー攻撃は高度化・巧妙化しており、ランサムウェアによる被害は増加の一途をたどっています。複雑化したシステムやネットワーク環境では、ランサムウェアに一度感染すると、復旧に1週間以上、場合によっては数カ月を要するケースもあります。
復旧にこれほど時間がかかるのには、次のような理由が考えられます。
- 管理すべきPCの台数が多い
- 工場や地域拠点、海外拠点など、PCの物理的な設置場所が広範囲に及んでいる
- PCの設定やスペック、OS/ソフトウェアのバージョンが統一されていない
- PC内や各拠点のファイルサーバなど、データの配置場所が複数に分散している
こうした事情から、情報システム部門などはPCを1台1台引き上げて、設定や状況を確認したうえで復旧せざるを得ず、膨大な時間と人的リソースが必要となっているのです。
製造業において「生産を止めないこと」は最重要課題です。製造現場が1日でも停止すれば、自社の損害はもちろん、関連企業も深刻な被害をこうむりかねず、消費者を含むサプライチェーン全体に甚大な影響を及ぼします。ITインフラの脆弱性は、企業の存続を左右する重大な経営リスクに直結する課題です。
3. 一律スペックのPC配布による限界
生産性とコストのジレンマを生む“スペックの過不足問題”
多くの企業では、IT資産管理のシンプル化や導入時のボリュームディスカウントを優先し、全てのユーザーに同スペックのPCを配布しがちです。しかし実際には、ユーザーによって業務内容や必要とする処理能力には大きな差があります。
製造業では、CAD/CAEやシミュレーションなど、高いスペックを必要とするパワーユーザーが多い傾向にあります。こうしたユーザーに性能不足のPCが割り当てられると、処理待ち時間が増加し、作業効率と生産性が著しく低下する恐れがあります。AIやデジタルツインといった高度な技術を活用したいと思っても、マシンスペックが追い付かず、プロジェクトが希望通りに進まないケースが散見されます。
例)車両の衝突耐久テスト
仮想空間でシミュレーションを行えば、条件を変えながら何度でも検証を重ねることができます。しかし、その前提となるのが、膨大なデータ処理を高速で行えるワークステーションやサーバーなどのシステム環境です。こうした環境が整っていない場合、シミュレーションには時間もコストもかかり、スケジュールや予算の都合上、テストを実施できる回数は限られてしまいます。
このように、パワーユーザーの生産性を高めるためには、3D設計や解析、AIやデジタルツインなど複雑なグラフィック処理やコンピューティング処理を高速で行える環境が必要です。ところが、パワーユーザーが求めるような環境を全ユーザーに提供すると、投資コストがかさむうえに、ライトユーザーや一般ユーザーにとっては過剰スペックとなり、せっかく投資したIT資産を十分に活用できない結果となってしまいます。つまり、「全体のコストを抑えつつパワーユーザーの高度な性能要求に応えること」が、製造業における大きな課題となっているのです。
4. 挑戦を阻む環境での機会損失リスク
デジタル技術活用の遅れが招く競争力低下
AIやデジタルツインといった新技術を活用したいと考えても、コスト面の制約や、適切なシステム構成の検討・選定・導入・運用を担える人材の不足などを理由に、導入を断念するケースは少なくありません。しかし、有用なデジタル技術を活用できない状態は、新たな取り組みに挑戦する機会そのものを失うことにつながります。
例えば、前述した車両の衝突耐久テストの例でも、仮想空間で繰り返しシミュレーションを行うことができれば、検証精度の向上や品質改善、新たな付加価値の創出といった可能性が広がります。一方で、そうした環境が整っていなければ、得られるはずのチャンスを逃してしまい、結果として企業の競争力低下を招きかねません。
5. IT運用の属人化と不足。ノウハウのブラックボックス化
担当者頼りのシステム運用がもたらす危機
少子高齢化や採用難といった社会的要因に加え、IT需要の急速な拡大により、製造業もIT人材不足に直面しています。特に、設計・開発や生産管理などの事業部門では、情報システム部門ではなく事業部門がIT関連の企画や運用管理を担ってきた企業が多く、担当者への依存が深刻な課題となっています。さらに、近年サイバー攻撃が巧妙化する中で、情報セキュリティの専門知識を持つ人材の供給も追いついていません。
システムの運用管理者が不足し、業務が属人化する現状では、「担当者が退職したとたんに、IT関連の環境を理解している人がいなくなってしまう」という大きなリスクが生じます。その結果、運用品質の維持や安定運用に不安が残る状況が生じてしまうのです。
課題を解決する2つのアプローチ「VDI」「vGPU」
端末の運用負担やIT資産の未活用、セキュリティリスク、IT人材不足、機会損失と課題が山積する現状を、どうすれば解消できるのでしょうか? カギを握るのは、製造業の現場を変える仮想化技術「VDI」「vGPU」です。
VDI(仮想デスクトップ基盤)で解決
VDIは、PCで実行するデスクトップ環境をサーバー上に仮想化して集約する技術で、ユーザーが手元の端末からネットワーク経由でリモートのサーバー上で稼働する仮想デスクトップへアクセスして、操作した画面更新の差分イメージのみが手元の端末に送られてきて、利用する仕組みになっています。すべての処理がサーバー上で行われ、バックアップデータなども集中管理されるため、運用性やセキュリティが大幅に向上します。

vGPU(仮想GPU)で解決
vGPUは、サーバーに搭載したGPUのメモリを仮想GPU(vGPU) として分割し、高いコア性能を複数台の仮想マシンで共有しながら利用できるNVIDIA社の技術です。各ユーザーに適切なリソースを分配することで、全体のコストを抑えながら、一般的なオフィスユーザーのパフォーマンス改善はもちろん、CADやCAE、AIやデジタルツインなどを利用するパワーユーザーの性能要求にも応えることができます。多種多様なデジタル技術を活用できる環境が整うことで、新たな発想や挑戦も生まれやすくなります。

VDIやvGPUは、「PCを用意すれば、すぐに設定して使える」といった簡単なシステムではありません。サーバー選定や導入計画の進め方など、初期段階の意思決定に苦慮するケースは多く、導入後の運用・管理フェーズで新たな課題が顕在化することもあります。ユーザーが満足できる環境を構築するためには、専門的な知識とスキルが必要です。
設計・開発・検証といった製造業の現場を熟知するアルゴグラフィックスは、VDIやvGPUなどの高度な仮想化技術の導入を数多く支援してきました。
その経験をもとに、「システムがどのように使われるか」「現場で本当に役立つか」も見据えた最適な設計をご提案します。
さらに、導入後のサポ―トとして、運用・管理・保守をまとめて対応できるマネージドサービスも提供しています。ITインフラに関わる煩雑な業務を当社が担うことで、IT人材不足や技術の属人化といった課題を解消できるほか、ITインフラの維持管理に追われることなく、本来のコア業務や戦略的なDX推進に集中できます。
まとめ
製造業が直面するIT課題は、管理運用・マシン性能・セキュリティ・人材の継承といった領域で複雑化し続けています。放置すれば、事業継続の危機や競争力の低下といった深刻なリスクにつながりかねません。その解決策となるVDI や vGPUなどの仮想化技術、そしてそれらの技術活用を強固に支えるサポート体制は、現場と経営の双方に大きな価値をもたらします。自社に最適なITインフラのあり方を再考し、変化に強い“次のものづくり”へ向けた一歩を踏み出したいとお考えでしたら、ぜひアルゴグラフィックスにご相談ください。
アルゴグラフィックスは専門家ならではのノウハウを生かし、設計から運用まで伴走することで、ものづくりのプロセスの最適化を支援します。これまで導入に踏み切れなかった方も、過去に挫折しあきらめていた方も、実績豊富な当社なら安心してお任せいただけるはずです。
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